高松家庭裁判所 昭和40年(家)474号 審判 1965年8月11日
申立人 早福敏且(仮名)
主文
申立人の名「敏且」を「敏旦」に変更することを許可する。
理由
申立人は主文同旨の審判を求め、その実情として、申立人の名は戸籍上「敏且」であるが、今日まで、かつて「敏且」を使用したことなく、常に「敏旦」(としあき)を称しておるので「且」との不一致により社会生活上、万事不都合不便をきたすからこの際「敏旦」と変更の許可をえたく本申立に及んだと述べた。
記録中の戸籍抄本、調査官の調査報告書および申立人に対する審問の結果を綜合すれば申立人の主張する事実はすべてこれを認めることができる。
そこで、申立人の申立の当否を検討するに、申立人は父早福孝男、母光子の長男として昭和一六年一月三一日出生し「敏旦」(としあき)と命名したが、当時その出生届け出の委託を受けた司法書士が名を誤つて敏且として届出をした。申立本人はもとより、このことを知らず(昭和四〇年七月一四日戸籍謄本を取寄せて初めてこの事実を知つた。)小、中学、高校を経て会計事務所勤務の今日にいたるまで、いまだかつて、「敏且」を用いたことなく常に「敏旦」と称し広く世間においても、右通称名で通用し、これをもつて本名である位にまで認識されているのみならず、本人もまたひきつづきこれを使用する意思であるなどの実情よりすれば、今や本人の名表示としての「敏且」は、却つて種々支障を生ずべく、従つてこの同一性の識別の混乱を防止するためには、今後も「敏旦」なる通称名を使用する必要性のあることを認めるに十分である。
ただ、問題は「敏旦」の「旦」という字はいわゆる常用平易な文字でない点である。しかし前認定のように、申立本人が今日まで「敏旦」名を常用していて、「敏且」を称したことなく、他面一般世間においても、「敏旦」名で通用しているという特段の事情がある以上、むしろこの事実に合致させることこそ社会生活上、本人のためにも第三者のためにも、便宜であると同時に取引の安全に資することとなるべく、それを拒否することは、むしろ呼称秩序を害することになるおそれがあろう。
よつて本件許可の申立は改名につき正当の事由あるものと認めて許可することとした。
(家事審判官 萩原敏一)